熊本県人吉市には国の登録有形文化財に指定されている旅館が2つあります。
1つは人吉旅館。
そしてもう1つが芳野(よしの)旅館です。
一歩足を踏み入れるだけで大正ロマンや昭和初期の優美な世界へタイムスリップできる、特別な老舗旅館。
相良藩(さがらはん)の御典医(ごてんい)の屋敷跡に建てられたという歴史を持ち、司馬遼太郎をはじめ多くの要人や文化人に愛されてきたこの名宿。
今回は、その歴史的価値から、おしゃれな館内の意匠、極上の天然温泉、そして料亭由来の美しいお食事まで、その魅力を余すところなくご紹介します。

明治から続く、国の登録有形文化財の宿
芳野旅館の最大の魅力は、館内全体に息づく本物の「歴史」と「建築美」です。
もともとは相良藩の御典医(殿様専属の医者)のお屋敷跡。
明治42(1909)年に「料亭 吉野本店」として創業し、昭和初期に旅館を併設、現在の姿へと形を変えました。
今でも、お屋敷だったころの名残は残っています。
たとえば、旅館のなかにある庭園。こちらはもともと様々な薬草が植えられていたそう。

これが旅館のどの廊下、どの部屋からも見える造りになっており、本当に素敵な景色の一部となっています。


4つの棟が織りなす近代和風建築
平成25(2013)年には、その貴重な建築様式が認められ、以下の建物が国の登録有形文化財に登録されました。
本館(昭和6年築): 温泉旅館の風情を今に伝える中心的な建物
別広間棟(大正2年築): 華やかな料亭時代の面影を残す
居間棟(明治21年築): 敷地内で最も古く、住宅から旅館への変遷を伝える
従業員棟(大正前期築)
中庭をぐるりと囲むように木造建築が配置されており、建築ファンでなくとも目を奪われる美しさです。
廊下1つ、サロン1つとっても、すべてが絵になります。


「館内はご自由に写真を撮っていただいて大丈夫です」
と仰っていただけますが、歩き回っているだけでも楽しい旅館です。
特に、昼と夜の変化はぜひお楽しみください。

ひとつとして同じ部屋はない。大正ロマン薫る「おしゃれな内装」
芳野旅館の客室(全15室)は、すべての部屋が異なる意匠(デザイン)で作られています。
客室ごとに職人のこだわりと遊び心が詰まっており、レトロでおしゃれな空間が旅の気分をグッと盛り上げてくれます。
今回宿泊させていただいたのは、作家「司馬遼太郎」が泊まっていたという”椿”の部屋。

「この部屋に泊まればなにか作品が書けるかもしれませんよ」と女将さんの御冗談。
でも、確かにここから見える庭園の景色は落ち着いて創作活動に取り組むにはぴったりなほど美しく穏やかです。

せっかくなので、司馬遼太郎氏にあやかってこの記事を書いています。
部屋の内装や備品
ちなみに、部屋には冷蔵庫やお茶、金庫、テレビ、お手洗いなどがあります。

レトロな旅館ですが、お手洗いはリニューアルされておりきれいです。

文化財としてのレトロさもありつつ全体的にきれいなお部屋ですが、強いて言えばコンセントが少ないです。
せっかくなら、電化製品断ちをして、ゆっくりと文豪と同じ世界に浸るのもいいかもしれません。
100%源泉掛け流しの人吉温泉
人吉温泉は、柔らかくぬるりとした肌触りが特徴の「美肌の湯」。
芳野旅館では、この名湯を100%源泉掛け流しの最高の状態で堪能できます。

風呂のタイプは大きく分けて3つ。
- 大浴場&庭園露天風呂: 立ち寄り湯でも入れる温泉
- 宿泊客だけの貸切風呂: 貸し切りの露天風呂が3つ、内湯が1つあります
- 玄関先の「足湯」: 旅館の玄関前には無料の足湯があり、まち歩きでも利用できます。
立ち寄り湯も可!露天風呂付き大浴場
泉質 ナトリウム-塩化物 炭酸水素塩泉
定休 要事前問い合わせ
営業 13:00〜20:00
料金 大人800円
備考 国登録有形文化財、シャンプー等の備品あり、有人のフロント、露天風呂、タオル販売あり
立ち寄り湯は、宿泊客の方が多いときにはできません。
必ず事前に立ち寄り湯が利用できるかを電話で問い合わせしましょう。
大浴場には露天風呂がついています。
大浴場とはいっても、4~5人が入ればぎゅうぎゅうな広さです。
旅館では800円という安価な価格設定ながら、内湯と露天風呂の2つが楽しめるのはありがたいですね!
半地下にあるので、絶景の景色などはありませんが、庭園があるため、季節の移り変わりを楽しむことができます。

更衣室は清潔感のある内装でとてもシンプル。
ドライヤーなど、過不足なく必要なものがそろっています。

3つの貸し切り露天風呂&1つの内湯
貸し切り湯は宿泊客のみ利用できます!
貸し切り湯は3つあり、他の方がいなければ予約不要で入浴できます。
※各部屋は鍵付き

内湯は館内にありますが、露天風呂は離れにあります。
離れに向かう道のりも庭園になっており、ここにも紫陽花など四季を感じる植物が植えられています。

露天風呂の室内に入ると、そこは更衣室。
そして更衣室を抜けるとシャワールームと、露天風呂が広がっています。

露天風呂は外から見えないよう仕切りがされていますが、お湯に浸かると、下から庭園が見えるような造りになっています。

館内のどこにいても四季を感じられる造りにこだわりが感じられます。
ちなみに、ほかの貸し切り湯はまた雰囲気が違うので、いろいろな浴場を楽しむのもおすすめです。

誰でも無料の足湯!
また、宿泊客や立ち寄り湯利用者ではなくとも利用できる足湯も旅館の前にあります。

料亭のDNAを受け継ぐ地産地消の「手作り会席料理」
芳野旅館のもう一つの真骨頂が、食事です。
「料亭」としてスタートしたお宿だからこそ、料理へのこだわりが強く感じられます。
夕食は、人吉・球磨の豊かな自然が育んだ食材をふんだんに使用した「手作り会席」です。
旬と人吉を味わう夕食
夕食では、旬の人吉球磨を味わえる料理がずらり。
こだわりは女将曰く「冷たいものは冷たいまま、温かいものは暖かいうちに提供する」こと。
確かに、一般的な旅館ご飯のように、最初からいろいろな食事が並んではいません。

まずは賞味期限が30分しかないという鮎のお刺身。
ぷりぷりの鮎は臭みが一切なく、醤油や酢味噌で味変ができます。
川魚が苦手な人でも楽しめるはずです。

訪ねたのが初夏ということもあり、鮎以外にもハモやとうもろこし、なすにじゅんさいと、季節ならではの小鉢が並んでいます。

その後は暖かい梅そうめんにサシの入った馬刺し、茶わん蒸しとさっぱりした味わいが続き…

人吉名物の鮎の塩焼きへ。身が柔らかく、ほくほくした食感。

そろそろ鍋にも火が入ってくると、まるでSLが煙を上げているかのような黒豚のお鍋のできあがり。
この鍋の汁がほどよい塩梅で美味しかったです。

そして最後は天ぷらとご飯。そしてデザート。
この天ぷらの奥には、最初に食べた鮎の骨が骨せんべいとして登場。
サクサクと柔らかく、ご飯にもお酒にも合う味でした。

全体的に、日本料理らしい上品な味付けですが、ボリュームたっぷりでおなかいっぱい!
芳野旅館で夕食をいただくときは、しっかりお腹を空かせておいてくださいね!
朝食はお腹に優しい温泉湯豆腐など
朝食では、熊本名物からし蓮根や温泉を使った温泉湯豆腐など、地元ならではの味わい。
朝の目が覚めていない体にぴったりの優しい料理が並びます。

温泉湯豆腐はほのかに温泉が香る程度で、言われなければ温泉とは気づかないほど。
癖のない味わいなので、普通に湯豆腐のように食べられます。

〆のデザートには、人吉球磨産の名物球磨のヨーグルト。
トルコアイスのようにまったりした食感で、甘くないアイスクリームを食べているようです。

夕食もそうですが、朝食も上品な手作り料理といった感じで、旅館の雰囲気もあいまりホッとする食事になっています。
芳野旅館の住所やチェックイン時間
〒868-0005 熊本県人吉市上青井町1800966-22-2244
チェックイン15:00~22:00(お食事ご利用の方は19:00まで)
チェックアウト~10:00
駐車場: あり(無料・30台)
アクセス:
JR肥薩線「人吉駅(人吉温泉駅)」から徒歩約7分
九州自動車道「人吉IC」から車で約5〜8分
国宝「青井阿蘇神社」から徒歩約4分
まとめ:文化財に泊まる贅沢。次の人吉旅行は「芳野旅館」へ
国の登録有形文化財という歴史的価値があり、上品なレトロ旅館といった印象の芳野旅館。
国宝・青井阿蘇神社や人吉駅からも徒歩圏内と、観光の拠点としてもこれ以上ないロケーション。
夕食をつけなくても、近隣には飲食店が多いため、困ることはないはず。
…ですが、できれば夕食込みで味わってほしい空間です。
ただ「泊まる」だけでなく、その空間と歴史自体を旅の目的地にしたくなる、人吉が世界に誇る名宿です。
ぜひ次の旅の候補にいかがでしょうか。

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